きっと、神戸でたくさんデートをしてきたであろう大人たちの「神戸でのデートの思い出」を紹介します。あのとき一緒にいた人の言葉や感触、忘れられない景色。記憶をほぐした先に見える街並みや、その人の人生を感じながら、昔の神戸デートを追体験します。

中村さんご夫妻のあの頃のデート

今回のゲストは、名谷で暮らす中村さんご夫妻。2人の出会いは80年代初期のディスコ、結婚後は車やバイクで各地へ旅行に出かけるなど、いつも「楽しいこと、したいこと」をともに共有してきました。夫の嘉也さん、妻の里美さんに当時のことを詳しくお聞きしました。


岐阜県出身の嘉也さんは、京都の大学を卒業後、大阪の壁紙メーカー企業に就職し花隈の事務所に勤務。明石出身の里美さんは、三宮地下のショッピングモール「サンプラザ」の2階にあったブティックでアルバイトをしていた。

里美さん恥ずかしいんだけど「原宿ゴーゴーファイブ」っていう店名でね。当時流行していたコム・デ・ギャルソンのようなブラックのニューウェーヴ・モード系の服を販売していたの。

恥ずかしいわあ、と笑う里美さんは女友達と、嘉也さんは男女の友達と休日前によく遊びに行っていたのがディスコだった。70年代終わりから80年代初めに到来したディスコブーム。三宮・元町には色々なハコがあった。

里美さんサタデーナイトフィーバーのようなダンスのディスコね。あの頃は出会いの場でもあったし、楽しみにいくところだったの。女の子同士で行くと弾けられてね。

嘉也さん妻と出会ったのは加納町にあった「アルバクラブ」というディスコでしたね。男友達が彼女のグループに声かけたのがきっかけで。当時僕は23歳、彼女は18歳。

里美さんサーファーファッションブームだったなか、お互いのグループだけイギリスやニューヨークで流行してたニューウェーブのファッションだったの。あの頃ってセンスを服装で見分けてたのよね。

「プレイゴー」や「ディノオ」など、若者がよく行くようなディスコにも通ったと笑うお二人。当時の写真を拝見すると、黒のシックな服装でロングヘアーの里美さんと、ラフなシャツの嘉也さん。お洒落な空気を纏っていて、フィルム写真から2人の物語が伝わってきそう。
この出会いをきっかけに2人は意気投合。間もなく付き合いが始まった。

付き合いはじめてほどなく、同棲をスタート。若くてお金もない2人は、灘の坂口通沿いの小さなアパートで暮らしはじめた。里美さんは、嘉也さんの仕事の休みに合わせるため、元町商店街のジェムビルにあった企業に転職。事務員となった。

里美さんあの辺りは、大安亭市場や水道筋商店街が生活の場になってね。ローカルで物価もちょっと安くて。お昼休みにチラシを見ては、仕事帰りに食材を買って帰ったわ。

今も昔も、生活を支えてくれる商店街。当時はもっと活気に溢れたくさんのお店が並んでいた商店街が、ともに働き生活する2人を支えてくれた。

里美さんあの頃、土曜夜に外食していたのが、大安亭市場にあった王将。餃子二人前と焼飯二人前で990円!今でも覚えてる。ささやかなご褒美だったのよね。

慎ましい生活をしていた二人にとっての小さな贅沢。土曜の夜が「餃子」になったのは、営業職の嘉也さんが臭いを気にせず食べられるのが休日前だったからだという。

嘉也さん付き合い始めてからは、ディスコには行かなくなりましたね。近所の王子動物園にはよく行ったなあ。耳がピンとした大きな耳の動物をよく見に行ってね。人気ないんだけど。なんて言ったかなあ・・。

「うーんなんだっけ」「耳のピンとした」「ラスカルじゃなくて・・・」「カラカル!耳がピンとしてねぇすっごく可愛くてね・・・」と掛け合いしながらカラカル愛で盛り上がるお二人。どんどん記憶が蘇りあっちこっちにと話が弾む里美さんの横で、うんうんと頷く嘉也さん。取材中何度も笑わせてもらった。

付き合って2年後に結婚。名谷へ引っ越し一軒家を購入し、2女に恵まれた中村さんご夫妻。職人になりたい夢を叶えるため、一度独立した嘉也さんも、子どもが大きくなるまでは収入が安定したほうがいい、と半年ほどでマンションリフォーム専門の企業に就職。定年まで勤め上げた。

嘉也さん車が好きでね、娘が小さい頃はジムニーやサーフなど、いろんな車に乗りましたね。カスタムして乗るのが好きでね。

里美さんその分生活は質素にね。でもね、そんな豪快な車で娘の幼稚園にお迎え行くのは恥ずかしかったわぁ。

車でよく遠出をし、まだ子どもが幼かった頃には家族4人でサーフWキャブで北海道を10日間旅したことも。さらには、里美さんもバイクの免許を取り、子どもをそれぞれ後ろに乗せてツーリングキャンプも出かけたのだというから驚かされる。

里美さんバイクの後ろに娘を乗せて、インカムで会話をしながら走って。娘が寝ちゃうもんだから紐で私と縛って。キャンプでは、枝木を探して焚き火をしたり料理をしたり、娘にも手伝わせたし、当時は旅館に泊まるなんてもったいないって思っていたわ。若いからできたのよ。

娘さんたちが中高生になるにつれ、部活や習い事が忙しくなり家族旅行は減っていったそう。「あの頃たくさん旅行をしておいてよかったよね。いい思い出ね」と写真を見ながら懐かしむ2人の眼差し。家族一緒にいろんなところへ旅して過ごしてきたからこそ、喧嘩もなく仲良く暮らしてきたのだろう。

いつもその時々の生活を楽しみながら暮らしてきたお二人。娘も結婚し、現在は夫婦で水入らずの生活を楽しんでいる。

嘉也さん少し前に家のリフォームをしたんですよ。間仕切りを撤去して床を貼ったりドアをつけたりは私がしてね。やっぱりDIYというか、作業するのが好きでね。あと2階の部屋が残っていて、これからの楽しみ。

里美さん昔からこのキッチンと横の部屋の敷居をなくして広くしたかったの。おかげで日差しも入って風通しが良くなって気持ちいいわ。

かつてデートで通った王子動物園は、いまではお孫さんを連れて出かけるお散歩スポットに。お孫さんが元気をくれるのだという。撮影で訪れた王子動物園では、最近はカラカルの代わりに同じく耳の立ったボブキャットがお気に入りの様子。2人で話しかける姿が可愛らしい。家でもこれまでゴールデンレトリバーを2匹飼い、今も猫が2匹いて常に動物とともに暮らしてきた。

動物園でも商店街でも、つねに笑顔で歩くお二人の姿。いつまでも朗らかに、にこやかに仲良い夫婦でいられる秘訣はなんなのだろう?気になって聞いてみると

嘉也さんあはは、がまんすることかな?

里美さん主人のおかげ。付き合った頃から喧嘩なんてなくて。年が離れている分、反対もしないし、好きにやらせてもらってきたからね。

と、照れながら話す里美さんの横には、やはり恥ずかしそうに笑う嘉也さん。どんなときも好きなことを共に楽しみ、温かい家庭を築いてきたからこそある、2人の今。仲良しのまま、いつまでも、これからも。


今回のゲスト

中村嘉也(よしなり)・里美(さとみ)
嘉也さんは岐阜県出身、マンションリフォーム専門会社を定年退職し、現在は自宅のリフォームを楽しんでいる。里美さんは明石出身。娘2人も結婚し、現在は名谷で猫2匹とともに暮らす。



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