あの頃のデート

きっと、神戸でたくさんデートをしてきたであろう大人たちの「神戸でのデートの思い出」を紹介します。あのとき一緒にいた人の言葉や感触、忘れられない景色。記憶をほぐした先に見える街並みや、その人の人生を感じながら、昔の神戸デートを追体験します。

今駒有子さんの、あの頃のデート

今回、お話を聞いたのは無類の映画好きの今駒有子さん。ときどき古着屋さんをのぞいたりしながらひとりで町をぶらぶらすることも好き。あの頃のデートのことを尋ねると、「昔のことは忘れました」ときっぱり。昔の話はそこそこに、母娘デート気分で新開地・湊川を散策。


よく通っているという新開地の神戸アートビレッジセンター(以下、KAVC)で待ち合わせ。今駒さんは、大阪の天王寺出身。幼い頃は父母が乾物屋さんを営んでいて、にぎやかな商店街のど真ん中で育った。

今駒このあたりは、若い頃よく行った新世界の周辺と雰囲気がよく似ていて、懐かしい

小さな劇場で映画を観るのが好きで、KAVCにもよく足を運ぶ。だいたいはひとりで、ときどき夫婦2人で。ホラーとスプラッター、ポルノ以外はどんなジャンルも観るのだそう。地下の劇場を少し見物して、次に向かったのは「高田屋京店」。おでんが名物の大衆居酒屋だ。大根と厚揚げをオーダーして、アルコールの入っていないビールで乾杯。今駒さんは、2年前まで高校で国語の教師をしていた。今は定年退職をして、”自由の身”だと笑う。

今駒夫は鞄をつくる職人で、家で仕事をしているから平日に2人で出かけられるんです。2人で映画を観たあと、ときどきこのお店へ晩ごはんを食べに来ます。神戸にはおしゃれなところもたくさんあるけれど、このあたりの下町っぽい雰囲気は和みますね。昼間からお酒を飲んで、赤い顔をしてても恥ずかしくないし。

一定のリズムで、ゆっくりと言葉を紡ぐ今駒さん。言葉がとてもクリアで、聞いていてとても心地いい。ちょっと、ご夫婦のお話を聞いてみる。

今駒夫とは、中学の同級生なんです。3年生の頃同じクラスになって、体育委員をしていて仲良くなったのがきっかけで。高校の進路は別々だったから、年に数回連絡を取っていただけ。

その後、大学生の頃から本格的なおつきあいが始まった。なんだか、映画のストーリーにありそうな微笑ましいエピソード。胸がキュンとなる。

結婚前は大阪で暮らしていたけれど、神戸にはよくデートで訪れていたのだそう。

今駒大学時代の恩師が食道楽で。その影響で、かつて神戸にあったモロッコ料理やイタリア料理のレストランへときどき夫と一緒に行きました。北野にあったイタリア料理店「ベルゲン」や、イギリス風パブ「キングスアームス」、インド料理「神戸・ゲイ・ロード「懐かしい」という言葉は出てくるけれど、決して後ろを向いていなくて、言葉が前へ向かっている。そんな気持ちになる。

今駒さんの趣味は、洋裁と中国語。本もよく読んだけれど、なかなか再版されない洋裁の本以外は、やっぱり”捨てた”。

今駒夫とは趣味があうというか、彼も家で黙々と商品をつくっているから、お互いインドア派なのかも。彼は職人だから、道具も自分でつくるんです。私が洋裁をしていて、”こういう道具が欲しい”と言ったらパッと出してくれて、ほんとに感心します。家にこもっていても体によくないから、ときどき近所の温泉に出かけたりして。

映画を観た後は、コーヒーを飲んだり晩ごはんを食べて帰るのがおきまりのコース。次に立ち寄ったのは、昭和23年創業の老舗「喫茶エデン」。今駒さんは、いつも”ミーコー(ミルクコーヒー)”をオーダーする

ところで、年間100本は映画を観たいという今駒さん。もちろん、観るときのこだわりもある。スクリーン以外のものが見えるのが嫌だから、小さな劇場なら座席は決まって最前列のど真ん中。

今駒DVDは、”映画を観る”ことにカウントしない。映画も好きですが、そもそも映画館が好きだからです。昔は、小さくていい映画館がたくさんあったけれど、ずいぶん減ってしまいましたね。神戸に引っ越しをしてきたばかりの頃は、灘区にあった「西灘劇場」や「三宮アサヒシネマ」によく行ったなぁ。

今駒さんがよく行くもうひとつの映画館が、湊川の「パルシネマしんこうえん(以下、パルしん)」。ちなみに「パルしん」はミナエンタウンという小さくて渋い商業ビルの中にある。下町というべきなのか、入るのに少し勇気がいるお店が並んでいて、なかなか味のある界隈。ちなみに、今駒さんにとって1日2~3本映画を観ることは当たり前だから、いつも昼食やおやつを買って行く。夏のKAVCなら、和菓子の「福進堂 」でアイスモナカ、行き先がパルしんなら「よつばや」のピロシキと、これもおきまり。

最後に向かったのは、湊川の東山商店街。新開地から、湊川商店街を抜けて北へぶらぶら歩いていく。この辺りは、昔ながらの商店街の風情が残っていて、多くの人でにぎわっている。今駒さんが映画の帰りによく行く「松岡珈琲店」や「COZY COFFEE」…と、とにかく喫茶店に詳しい。東山商店街に上がる途中の坂道で

今駒実家を思い出します。昭和にワープした気分。

とつぶやく。商店街育ちの今駒さんにとって、ここは懐かしい気持ちになれる場所なのだ。商店街は、ご夫婦でよくいらっしゃるのかと聞くと、やはりひとりが多いのだそう。

今駒食材が安いから、夕飯の食材を買ったり、買い食いしたりしながらぶらぶらするのがいい。

娘さんがいるからだろうか。なんだか、母と町をぶらぶらするときの感覚と似ていた。歩ている町も、話す内容ももちろん違うのに。なんでもない話をしながら、食べたいものを買って、歩きながら食べて気ままにおしゃべりをして。終始、のんびりとした時間が流れていて、気がつけば自分の話をたくさんしてしまった。今駒さんご夫婦の、ゆっくりとした時の流れをおすそ分けしてもらった気分。


今回のゲスト

今駒有子(いまこま・ゆうこ)
大阪生まれ。高校の国語の教員を経て、現在は神戸にて夫と娘と3人暮らし。趣味は、洋裁と中国語。デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)「大人の洋裁教室」第二期生。



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