あの頃のデート

きっと、神戸でたくさんデートをしてきたであろう大人たちの「神戸でのデートの思い出」を紹介します。あのとき一緒にいた人の言葉や感触、忘れられない景色。記憶をほぐした先に見える街並みや、その人の人生を感じながら、昔の神戸デートを追体験します。

益田茂廣さんの、あの頃のデート

今回、あの頃のデートを再現してくれた益田さんは現在70歳。アパレル関係の仕事に長く携わり、「若い頃から変わらない」というアイビーファッションの装いが渋い。現在は引退し、奥様と二人の時間を楽しんでいますが、素敵な女性がいたら声をかける…というアグレッシブさを今も保ち続けています。今回は、たくさんの恋とデートをきっと知り尽くしているであろう益田さんと、「大人のデート」へ出かけた。


昔のデート、そして今、一番贅沢なデート

20代、30代の頃に益田さんがデートの待ち合わせ場所に使っていたのは、旧居留地にある神戸オリエンタルホテル。益田さんが通っていたのは、以前同じ場所に立っていた1964年築のホテル。どっしりしていて、風格のある建物だったそう。

益田ここのロビーで待ち合わせをして、地下のバーで一杯飲んで、デートが始まる。ホテルでディナーをすることもあったなぁ。

旧居留地のあたりは、今でもよく、夫婦でデートをするエリアなのだとか。ちなみに奥様は元服飾デザイナーで、この日、益田さんが来ていたリネンのコートは手づくりなのだそう。なんだか素敵なお話。

益田妻とは、大丸で買い物をすることが多いかな。今は、妻と過ごす時間が贅沢でいいね。彼女は料理が上手になったし、いい食材をちょこっと買って帰って、二人でおしゃべりしながら時間をかけて食事をするのがいい。

すべてを手放した今だから、できること

次に向かったのは、栄町にあるカフェ「ALLIANCE GRAPHIQUE(アリアンス・グラフィック)」。
海岸ビルヂングの煉瓦造りの渋い建物が、益田さんのお好み。ボサノバの流れる店内で、白ワインをオーダー。

益田さんは、商社を退職した後、独立してアパレル系の会社を経営していたが、60代になってから会社をたたまなければならない状況に。バブル時代の、仕事も遊びも羽振りのよかった時代もあったし、人生で一番辛い判断をしなければならないこともあった。この経験が、この渋い表情と深みのある言葉、そして優しい笑顔を生み出しているのだろう。

益田仕事一筋だったし、それなりにやんちゃもしてきて。自分の会社を手放す決断は一番辛かったね。でも、中途半端なことはしたくなかったから会社を手放した。それからは、世の中のためにできる事ってあるのかなってずっと考えていた。それまで、”自分のため”ばかりだったから。

益田さんは、団塊の世代の一人として常に競争社会を生きてきた。だからこそ感じる、“高齢化社会”への不安や問題を伝えていきたいという使命感に突き動かされて、アイデアを練っていたのだそう。そしてその頃、デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)で募集していた「男・本気のパン教室」を知り、パンじぃ一期生として大活躍。他にも、ヨガイベントを企画したり、神戸市の生活・介護支援サポーターとしても積極的に活動している。

今も昔も、気取らない生き方

益田さんからは、ワクワクするアイデアが次々と湧いてくる。きっと、いくつになっても、ご自身の真ん中に太くて強い芯を持つクリエイターなのだろうなと思う。

「声が大きいから、隠しごとができひんねん」と豪快に笑う益田さんは、なんと今でも街で素敵な女性を見かけたら声をかけるのだそう。

益田センスがいいなぁ、素敵だなぁと思う女性には声をかけますよ。僕は、思ったことを素直に言う人だから。何も怖くないよね、だって、お互い同じ人間だし。若い人が自信がないなんて言ってたら、もったいない。今を楽しく生きないと!そう思えたのも、 70歳になってからだけどね。

そう、益田さんには気取りがない。今日はちょっと特別にお店を回ったけれど、デートのエピソードも、益田さんらしい。

益田好きな人とならどんなことでもいいよね。今日はちょっと贅沢しようという日は、フレンチレストランへエスコートするし、持ち合わせがなければ正直に彼女に伝えて、おいしいパンを買って二人で海辺で食べたりね。彼女も仕事をしていたから、まずは会える時間が大切だった。ええカッコしなくていいねん。

あの階段を登って、この場所へ

最後に連れて行ってくれたのは、20代の頃から行きつけだという老舗のバー「YANAGASE」。
煉瓦造りの階段を登って重い扉を開けると、凛とした空気が流れていた。
ジントニックで軽く乾杯して、思い出話しに花が咲く。

益田音楽もいいし、このどっしりとしたお店の雰囲気も、ずっと好きだな。初めて来たのはまだ20代の頃。ここには、いろんな人と来た。意気投合した女性と食事の後にデートすることもあったし、仕事で交渉ごとがうまくいった日は祝杯をあげたり。悩んでいる時は、一人で静かに考え事をして過ごすこともあった。僕の知っているマスターは引退してしまったけれど、どんな時も変わらず、静かにカウンターの中にいてお酒をつくってくれた。

これまで、いろんなものを手に入れてきたけれど、今はすべてを手放した。地位やお金を持っていた時代もあったけれど、今は守るべきものがなくなったから、余計なことを考えなくていいと言う。

益田今、この瞬間を楽しむ。明日があるかわからないから今を大切にする。おもしろく楽しく食べて飲んで、おしゃべりできる仲間を持つこと、そしてそういう時間を過ごすことがすごく大事。

そして、今一番大切なのは、と言葉を続ける。

益田世の中のためになることをして、一人でも理解してくれたらうれしいし、若い人たちに、何かプレゼントできればいいなと思ってる。人生の最後に、“いい生き方だったね”と言われたらいいよね。妻も、ちゃんと自分の軸を持っていて貫く人。彼女の生き様を尊敬している。だから、お互いに心地いいペースを保ちながら一緒にいられるんだろうな。


今回のゲスト

益田茂廣(ますだ・しげひろ)
1947年神戸生まれ。大手アパレル商社にて勤務後、独立し、閉店。現在は神戸市内にて奥様と二人暮し。神戸市生活・介護支援サポーター。デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)「男・本気のパン教室」第一期生。



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